2024年3月28日

近年、公共施設・商業施設・企業などのみならず、マンションなどの集合住宅や町内の集会所などにAED(自動体外式除細動器)を設置するケースも増えてきました。マンションや町内へのAED導入は、住民や周囲のコミュニティーに暮らす人たちの命を守り、安全性を高めることにつながります。住民へのサービス向上や地域防災の観点から見ても、AEDが果たせる役割は大きいといえるでしょう。

ここでは、マンション管理組合や町内会・自治会などでAEDを設置・導入・管理するにあたってのポイントを解説します。

マンションや町内会・自治会はAEDの設置場所として重要視されている

マンションや町内会・自治会はAEDの設置場所として重要視されている

AEDは消火器や消防設備と異なり、原則として法律による設置義務はありません。横浜市のように、一部の自治体で条例により設置を義務付けているケースもあるものの、基本的に法律上の義務にはなっていません。

しかし、AEDを広く普及させる観点からも、以下のような場所・施設においては設置が望ましいとされています。

<AED設置が推奨される場所・施設>

  • 駅・空港・バスターミナル・高速道路サービスエリア
  • スポーツジム
  • デパート・スーパーマーケット
  • 市役所・公民館
  • 商業施設・アミューズメントパーク
  • 会社・工場
  • 学校(保育所・幼稚園、小・中・高校、大学・専門学校)
  • 集合住宅
  • 介護・福祉施設

参照:一般財団法人日本救急医療財団「AEDの適正配置に関するガイドライン」


マンションや町内会・自治会の集会所なども、駅や商業施設などと同様に、人が多く集まる場所としてAEDの設置が推奨されています。

参考:旭化成ゾールメディカル「AEDの適正配置をご存知ですか?効果的・効率的なAED設置とは

マンションや町内会・自治会の集会施設にAEDが必要な理由

前述のとおり、マンションなどの集合住宅はAED設置が推奨される施設の1つです。同様に、町内会や自治会の集会施設も多くの人が暮らすエリアに位置していることから、AED設置を検討するのが望ましいといえます。
ここからは、マンションや町内会・自治会の集会施設にAEDが必要な理由について詳しく解説します。



救急車を待っているだけだと間に合わない可能性がある

AED設置が求められる大きな理由には、心停止が起きた場合すぐに救急車を呼んだとしても手遅れになるケースが多いことが挙げられます。

消防庁のデータによると、119番通報から救急隊が現場に到着するまでにかかる時間は、全国平均で10分を超えています。一方で、心停止の傷病者に対して何も処置をしないでいると、1分経過するごとに約10%生存率が下がってしまいます。

電気ショックまでの時間と生存退院率
AHAガイドライン2005、総務省消防庁「令和5年版 救急救助の現況」の情報をもとに作図

そのため、心停止が起きてすぐに救急車を呼んだとしても、救急隊の到着を待っているだけでは救命できないケースも起こりえます。心停止による突然死の7割近くが自宅で発生するとされていることもあり、マンションや町内会・自治会にAEDが設置されていれば、早期にAEDを使った一次救命処置を行うことができ、突然の心停止から命を救える可能性が高まります。

参照:一般財団法人日本救急医療財団「AEDの適正配置に関するガイドライン」
   総務省消防庁「令和5年版 救急・救助の現況」



早期のAED使用が救命率を向上

消防庁によると、心停止が起きた際に救急隊の到着を待たずに一般市民が心肺蘇生を行った場合、一般市民による心肺蘇生をしなかった場合と比べて、1か月後の生存率が約2倍になります。社会復帰率に関しては、約3倍とより大きな差があります。

さらに心肺蘇生を行ったケースのうち、AEDによる除細動(電気ショックで除細動(心臓のけいれんを取り除き正常なリズムに戻すこと)を実施した場合、約半数の傷病者が生還できました。除細動を実施せず心肺蘇生を行った場合の1か月後の生存率は約13%であることから、AEDを使用したほうが生存率を大幅に高められることが分かります。

参照:総務省消防庁「令和5年版 救急・救助の現況」

AEDを導入する前に検討したい注意事項

AEDを導入する前に検討したい注意事項

マンションや町内でAEDを設置する場合、設置場所や導入方法など、事前に確認・検討しておくべきポイントがあります。

  • 町内・マンション内でAEDの適正な配置場所を検討する
  • 未就学児用パッドを用意する
  • マンション管理組合・町内会・自治会はリース契約ができない
  • AED導入には補助金・助成金を使えることがある

AEDを導入する前に検討したい注意事項について、詳しくみていきましょう。



町内・マンション内でAEDの適切な設置場所を検討する

はじめに、町内やマンションのどこにAEDを設置するのが適切かを検討しましょう。救命率を高めるAEDの適正配置として、次のような場所に設置するのが望ましいとされています。

  • 3分以内にAEDを使用できる場所
  • 誰でもAEDを見つけやすい場所
  • 24時間誰でもアクセスできる、鍵がかかっていない場所
  • 点検しやすく、高温や風雨などでAEDが壊れにくい場所

設置の際には、建物や町内の面積、構造、動線などに基づいて、数と場所を検討します。AEDを1000m四方に1台設置した場合と500m四方に設置した場合では、社会復帰率が4倍も変わることが分かっています。
日本心臓財団・日本循環器学会では、心停止から5分以内の除細動(電気ショック)と、300mごと(早足で1分以内)のAED設置を推奨しています。

心停止を目撃してから119 番通報(心停止を認識し行動する)までに2~3 分を要します。救命には、心停止発生から遅くとも 5 分以内に AED を使用できる体制が必要なため、傷病者発生現場から早足で片道 1 分以内の密度、すなわち300m間隔でAEDを配置するのが理想的です。
建物の広さや構造に応じて必要な台数は異なります。例えば、2分でワンフロアを往復できる集合住宅なら各フロアに1つ以上AEDを設置するのが望ましいでしょう。

設置場所は、導線を考慮した階段やエレベーター付近、誰でも見つけやすい集合玄関や共用エリアなどが適しています。心停止はいつ起こるかわかりません。いつでもアクセス可能な場所に設置しましょう。

参照:一般財団法人日本救急医療財団「AEDの適正配置に関するガイドライン」
   公益財団法人日本心臓財団「AEDの設置基準の条件」
参考:旭化成ゾールメディカル「AEDの適正配置をご存知ですか?効果的・効率的なAED設置とは



小学校入学前の子ども向けに未就学児用パッドを用意する

AEDの除細動(電極)パッドには、小学生~大人用と未就学児用の2種類があります。未就学児の場合、電気ショック時に供給されるエネルギー量を小学生~大人の1/3~1/4程度に減衰させる必要があることから、未就学児用パッドや未就学児用モードの使用が推奨されます。

未就学児用パッドは小学校入学前の子どもが対象で、小学生以上の子どもは小学生~大人用パッドを使用します。従来は「未就学児用」ではなく「小児用」という名称が使われていましたが、対象年齢が分かりにくいため「救急蘇生法の指針2020(市民用)」において、市民が小学生に対してどちらのパッドを使用すべきか即時に判断できるよう名称が変更されました。しかし、それ以前に販売されたAEDの場合は旧名称が使用されている場合もあるため確認しておきましょう。

未就学児の居住者がいるマンションや住宅地、利用が想定される施設・場所では、未就学児用パッドの準備や未就学児用モードのついたAEDの設置を検討しましょう。

参考:旭化成ゾールメディカル「JRC蘇生ガイドライン2020について



マンション管理組合・町内会・自治会はリース契約ができない場合も

マンションや町内でAEDを導入する際、管理組合や町内会・自治会の名義ではリース契約を結べないケースがある点に注意しましょう。

リース契約を行うには、通常法人格が必要となります。法人格がないとリース会社の審査(与信)に合格しません。一般的にマンション管理組合や町内会、自治会は法人格を持っていないため、リース契約ができない ことが多いでしょう。そのため、マンションや町内でAEDを導入する方法としては、レンタルや購入などが一般的になります。



AED導入には補助金・助成金が適用されることがある

マンションや町内でのAED導入には、補助金・助成金が適用される場合があります。AED導入に活用の可能性がある主な補助金・助成金は次のとおりです。

  • 自主防災組織補助金
  • 防災組織整備機材補助金
  • 防災組織活動費助成金など

都道府県や市区町村などの自治体が、これらの補助金制度を実施しているケースが多いため、予算検討時には、活用可能な制度がないか調べてみるとよいでしょう。適用条件や金額などは、自治体によって異なるため、施設所在地の自治体に確認・相談してみることをおすすめします。

参考:旭化成ゾールメディカル「AED設置に対する補助金や助成金とは?申請条件や対象を解説

AED導入後の注意事項

AED導入後の注意事項

いざというときのために、AEDの設置推進と一次救命処置についての知識を身につけておきましょう。さらに、AEDは設置するだけでなく、導入後も管理やメンテナンスを行わなければ非常時に適切な使用ができません。

  • 設置管理者の設置・引継ぎを行う
  • 住民にAEDの使用方法を周知する
  • 定期的な点検・消耗品の交換を行う

最後は、AED導入後に検討すべき注意事項について解説します。



設置管理者の設置・引継ぎを行う

AED導入後は設置管理者を決め、適切な管理を実施するとともに、交代する場合は必ず引継ぎを行いましょう。

設置管理者は、以下のような業務を行う必要があります。

  • 日常点検や消耗品の期限管理・交換の実施
  • AEDの設置情報を登録および変更する場合の連絡
  • AEDを廃棄・譲渡する場合の連絡

消耗品は、期限が切れる前にメーカーや販売代理店からお知らせが来ることもありますが、会社や契約内容によっては連絡が来ない場合もあるため、自主的な管理が必要です。

また、管理者が変わる際には、販売店やメーカーへ変更の連絡をしましょう。



住民にAEDの使用方法を周知する

AEDの設置後は、救命講習などを実施し、しっかりと住民に使用方法を周知する必要があります。使用方法を理解している人が多いほど、緊急時に有効活用できる可能性は高まるでしょう。

AEDの使用方法は、消防署や自治体、NPO団体、AEDメーカーや販売店が実施する講習会の他、オンライン上の動画などでも学ぶことができます。管理組合や町内会で防災訓練を定期的に実施し、緊急時に住民の誰もが迷わずAEDを使えるよう、広く周知していきましょう。

参考:旭化成ゾールメディカル「AEDの講習会とは?一次救命を学ぶには?



定期的な点検・消耗品の交換を行う

AEDは本体だけでなく消耗品にも有効期限があるので、適切に使用できる状態を維持するには、定期的な点検と消耗品の交換が不可欠です。

特に、バッテリーとパッドの有効期限がAED本体の保証期間より短い場合や、バッテリーとパッドの有効期間が異なる場合があるので、管理の際には十分注意しましょう。

AEDにタグや管理表を付けて交換時期を記載し、消耗品の期限が迫っていないか定期的にチェックしてください。またパッドは再使用不可のため、期限が切れていなくても一度開封した場合は交換が必要になります。

AED設置後は日常点検が欠かせないため、導入時に必ず担当者を決めておきましょう。

参考:厚生労働省「AEDを点検しましょう!」
   旭化成ゾールメディカル「AEDを使ったらどうすればよい?パッドの交換や廃棄など、AED使用後に取るべき手順と注意点を解説

まとめ

マンションなどの集合住宅や町内会、自治会では、コミュニティーの住人や近隣の施設利用者を心臓突然死から守るためにAEDの設置検討が望まれます。AED導入の際には、適正配置や利用者の属性などに応じた製品選定が重要です。

AEDを設置した後は、いつでも誰でも必要な時に適切に使用できるよう、担当者を決めて日常点検などの管理体制を整備するとともに、設置場所や使用方法をしっかりと周知していきましょう。

旭化成ゾールメディカルのAEDサイトでは、「AEDの使い方と心肺蘇生の流れ」が学べるコンテンツを多数ご用意しています。一次救命処置やAEDについての疑問にお答えしている「よくあるご質問」もぜひご活用ください。