2022年7月26日

みなさんが日々過ごされるオフィスや学校、よく訪れる施設などでは、突然の心停止から命を守る備えが十分されているでしょうか?日本国内では、AEDの普及が進みつつありますが、AEDがすぐに使える場所に設置されているかどうか、知らない方も多いのではないでしょうか?

ロビーや入口にAEDがあったとしても、他のフロアや 離れた場所、工場などの広い場所で傷病者が出た場合、 AEDを届けるための移動に時間がかかります。 AEDの設置が効果的かつ効率的でなければ、いざというときに突然の心停止から大切な命を救うことができなくなってしまいます。

ここでは、AEDの導入を検討している、または既に設置済みの事業者や施設管理者が知っておくべきAEDの設置場所や適正配置に関する基準について解説します。

AEDの設置基準が設けられた背景

AEDの設置基準が設けられた背景

AEDとは「自動体外式除細動器」のことで、突然の心停止を起した傷病者に対して、一般市民が除細動を行うことのできる医療機器です。

日本では、2004年7月の非医療従事者によるAED使用が認可されて以来、AEDの設置普及が進んできました。しかし、その一方で、総務省消防庁の「令和3年版 救急救助の現況」によると、2020年(令和2年)の1年間に一般市民に目撃された心原性心肺機能停止傷病者(突然の心停止)25,790人のうち、AEDが使用されたのは1,092人と、わずか4.2%にすぎないというデータが示されています*

*参照:総務省消防庁「令和3年版 救急救助の現況



厚生労働省は、AEDの設置および配置について具体的な目安を示すことにより、効果的かつ効率的なAEDの設置を促し、心臓突然死の減少につなげるため、「AED の適正配置に関するガイドライン*」を公開しています

多くのケースにおいてAEDが使用されていない現状について、「AEDの適正配置に関するガイドライン」によると、以下のような背景があるとみられています。

  • AEDの絶対数不足
  • 心停止の発生場所と設置場所のミスマッチ
  • 地域におけるAED配置基準に一貫性がない
  • 設置場所が市民に周知されていない
  • 設置に関する政策の関与や計画的な配置がなされていない



一般市民によるAEDの使用率が低いのは、AEDの設置数が少ないことに加え、AEDが計画的・効果的に設置されていない、AEDの設置に関する情報提供が十分でないことが大きな理由だといえるでしょう。

*参照:厚生労働省「AEDの適正配置に関するガイドライン

AEDの設置が推奨・考慮される施設について

「AED の適正配置に関するガイドライン」には、AED設置が推奨される施設と設置を考慮すべき施設が示されています。管理する施設が設置を推奨または考慮すべき施設に該当しているかどうかをチェックしておきましょう。該当していて未設置の場合は、設置の検討をおすすめいたします。

弊社AEDコラム「AEDはどこにある?知っておきたい設置場所や設置基準のポイント」でも、AED設置が推奨または考慮される施設について解説していますので、ぜひご参考ください。

施設内に設置する際に、考慮すべきこと

施設内に設置する際に、考慮すべきこと

「AED の適正配置に関するガイドライン」には、AEDを設置する際、どのようなことを考慮すればよいかが示されています。すでにAEDを設置されている場合は、以下が十分に考慮されているか確認し、必要に応じて見直しすることをおすすめします。また、これから設置を検討される場合は、以下の条件を満たせるように設置計画を進めてみてください。

  • 心停止から 5 分以内に電気ショックが可能な配置
  • 分かりやすい場所
    (入口付近、普段から目に入る場所、多くの人が通る場所、目立つ看板)
  • 誰もがアクセスできる(カギをかけない、あるいはガードマン等、常に使用できる人がいる)
  • 心停止のリスクがある場所(運動場や体育館等)の近くへの配置
  • AED 配置場所の周知
  • 壊れにくく管理しやすい環境への配置



ここでは、「心停止から 5 分以内に電気ショックが可能な配置」について、詳しく解説していきます。

心停止から 5 分以内に電気ショックが可能な配置とは

日本心臓財団・日本循環器学会では、心停止から5分以内の除細動(電気ショック)と、300mごと(早足で1分以内)のAED設置を推奨しています*

*参照:公益財団法人日本心臓財団「AEDの設置基準の条件」



心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割を果たしているため、 心臓が止まると血液が送り出されなくなります。 心停止から1分間処置が遅れるごとに約10%ずつ救命率が 低下し、何もしないで3分間経過すると脳機能に障害が起こり始めるといわれています。そのため、命を救うには迅速な救命処置が必要となります。

電気ショックまでの時間と生存退院率

一方で、一般市民が心停止を目撃してから、119 番通報(心停止を 認識し行動する)までに 2~3 分を要します。救命には、心停止発生から長くても 5 分以内に AED を使用できる体制 が必要なため、現場から早足で片道 1 分以内の密度、すなわち300m間隔でAEDを配置することが望まれます。

実際に、愛知万博では100 台の AED が300mごとに設置され、会場内で発生した心停止 5 例中 4 例が救命に成功しました。羽田空港 では、3分以内にAEDを届けられる 場所にAEDが設置されています。

300m間隔でAEDを配置する

また、施設内の AED はアクセスしやすい場所に配置されていなければなりません。例えば、オフィスビルやマンションなどではエレベーターや階段等の近くへの配置が望ましいでしょう。工場などの広い施設では、通報から、AED 管理者が現場に直行する体制を整える必要があります。敷地の広さに応じて、自転車やバイク等の移動手段を活用した時間短縮も考慮しましょう。

特に規模の大きい施設は、場所を考慮せずに設置するといざ使用するときにAEDの到着まで時間がかかってしまう可能性があるので注意が必要です。
高層ビルの1階受付や、広い敷地内の管理室にのみAEDが設置されている場合、離れたフロアや棟から取りに行くことを想定すると、適切な配置がされているとは言えません。すでにAEDを設置されている場合でも、大切な命を守るための適正配置を考慮したAED設置場所の見直しやAEDの増設を検討しましょう。