2022年10月7日

スポーツイベントなどで心停止を起こした参加者が、AEDの使用で救命されたというニュースを見聞きしたことがある人も多いのではないでしょうか。

スポーツ中やその直後は、心臓突然死のリスクがスポーツをしていない時の17倍に高まるといわれています。その多くは心室細動という不整脈によるもので、そこから命を救うにはAEDによる電気ショック(除細動)を行うしかありません。かつては一次救命処置が十分に行えず手遅れになるケースも多く見られました。しかしAEDの設置数の増加や、スポーツイベントの現場に医療班や救護スタッフが配置されるなどの対策が講じられたことで、救命された事例が増えています。

東京オリンピックやパラリンピックの開催決定を機に、日本循環器学会と日本 AED 財団が、スポーツ中に心臓発作を起こして亡くなる突然死をなくすため、救命に欠かせないAEDを迅速に使えるよう会場やコースに配置するなど体制の整備を求める提言をまとめ、2018 年 4 月 に発表しました。

参照:日本循環器学会 日本 AED 財団提言「スポーツ現場における心臓突然死をゼロに」

それにともない、スポーツ時の心臓突然死をゼロにするために取り組むスポーツ施設や団体も増える一方で、大規模イベントや大会のみならず、スポーツジムや運動場、ゴルフ場、学校といった日常的に運動を行う場所へのAEDの設置も強くのぞまれます。

ここでは、スポーツ中の心臓突然死、それを防ぐためのAED設置と救護体制の重要性、一次救命処置の手順とポイントなどにつき、AEDによる救命事例をまじえて解説します。

過去に起きたスポーツ中の突然死

 過去に起きたスポーツ中の突然死

スポーツ中の突然死は明らかな心疾患を持っている人でなくても起こり得ます。過去には高円宮憲仁さまがスカッシュの練習中に急逝されたり、マラソン大会で参加者の死亡が続いたりと、スポーツを楽しむ場での不幸な事故が相次ぎました。

なかでも、元サッカー日本代表の松田直樹選手が松本山雅FC在籍時に練習場で倒れ、その後死亡した事故は社会に大きな衝撃を与えた出来事です。34才という若さで帰らぬ人となった松田選手の命は、AEDが近くにあれば救えた可能性があり、社会がAEDの重要性を考える大きなきっかけのひとつとなりました。

参照:減らせ突然死プロジェクト 命の記録MOVIE あなたにしか救えない大切な命~君の瞳とともに元サッカー日本代表 松田直樹さんの突然死

松田選手が活躍したサッカー界を統括する日本サッカー協会でも、この事故を機に積極的な対策に取り組んでいます。具体的には、全チームに対して試合中のAEDの携行・設置を義務付けたり、医師、トレーナーの他、選手、指導者、審判員、保護者等などにAED救命講習会を実施したりといった対策です。

参照:日本サッカー協会「メディカル 救急救命」

また、こうした日本サッカー協会の取組みを後押しするため、旭化成ゾールメディカルをはじめとしたAEDメーカー各社もサッカー競技者や団体に対するAED設置促進活動へ協力しています。また、弊社は2020年千葉県千葉市に竣工された高円宮記念JFA夢フィールドへZOLL AED Plusを寄贈し、施設の利用者の安心安全に貢献をしています。

旭化成ゾールメディカル「ZOLL AED Plus 製品情報」はこちら

参照:日本サッカー協会「JFA夢フィールドとは」

スポーツ中の突然死は心臓の「心室細動」によるものが多い

スポーツ中の突然死は心臓の「心室細動」によるものが多い

一般的にスポーツ現場での心臓突然死は「運動中」や「運動後1時間」に起きるものをいい、最も多い原因が心室細動です。心室細動とは致死性不整脈の一種で、心臓の中でも全身に血液を送り出す特に重要な左心室で突然けいれんが起こる病気です。全身へ血液が送り出せなくなるため、数分以上この状態が続くと死に至ります。

心室細動にはさまざまな原因が存在しますが、多くの場合その存在に気づかないことが多く、突然心室細動が発生します。元来、心臓の病気や異常がある人に発生しやすい症状ですが、先天的な病気を患っていない人でもリスクがないわけではありません。胸部に強い衝撃を受けることで発症するケースもあります。

ある米国の研究によると、突然死が起こる確率は、スポーツ中だと142万回の運動で1度と低確率です。しかし運動の前後1時間では、運動せずに過ごす1時間と比べて17倍もリスクが高いという研究結果もあります。さらに、普段から運動を習慣化している人よりも運動をする習慣がない人のほうがリスクが高い傾向です。

心室細動を取り除くのはAEDの電気ショック

心室細動を発症すると、心室が小刻みに震えて正常に収縮しなくなり、心臓から脳や臓器へ血液が十分に回らず意識不明に陥ります。この状態のまま放置するとやがて心臓が停止するため、命をつなぎとめるためには即座にAEDで電気ショックを与え、除細動することが必要です。

AEDは電極パッドを傷病者の胸に装着すると自動で心電図解析を行い、電気ショックが必要かどうかを知らせてくれます。必要な場合は、『電気ショックが必要です。体に触れないでください。点滅しているショックボタンを押してください』などとAEDが音声で知らせますので、AEDの指示に従い迅速に電気ショックを与えましょう。

AEDによってスポーツ中の突然死から救われた事例

AEDによってスポーツ中の突然死から救われた事例

スポーツ時の心停止からAEDにより命が救われるシーンは、イベントや日常でスポーツを楽しんでいるときなどさまざまです。ここでは実際にあった事例を紹介します。

東京マラソン

東京マラソンでは、過去14回の大会で11人の参加者がマラソン中に突然倒れ心肺停止に陥りましたが、ボランティアや救護スタッフによる救命活動により、11人すべての人が回復しています。

2009年開催の第3回大会では、ランナーとして参加していたタレントの松村邦洋さんが、走行中に心肺停止状態になり倒れた後、救命処置により回復したことがよく知られています。14.7キロ付近を走行中だった松村さんは、突然足が止まりそのまま倒れ込みました。AEDを持った大会スタッフ2人が時間をおかずに駆けつけ、心配蘇生を行った結果、無事に救命され社会復帰することができました。

金沢マラソン

2016年以来、国内外から多くの参加者を集めている金沢マラソンでも、2019年と2021年の大会でランナーが心停止により倒れましたが、いずれも迅速なAEDによる電気ショックと救命処置により尊い命が救われ、無事に社会復帰を果たしました。

金沢マラソンでは、傷病者発生に迅速に対応できるようコース上に、事前に救命講習に参加した「AED隊」と呼ばれるボランティアによるAEDを携行した救護班を50以上配置し、自転車でも移動しながら万一の事態に備えています。このように、十分な救護体制を構築することが、いざというときに命を救える重要な鍵となります。

旭化成ゾールメディカルは、コースに設置するAEDの提供と、大会救護ボランティアの方々への事前AED救命講習を実施しています。

参照:旭化成ゾールメディカル「金沢マラソン2021に協賛しました」
   旭化成ゾールメディカル「金沢マラソン2019に協賛しました」

ゴルフ場での救命事例

2020年8月13日に滋賀県大津市のゴルフ場でプレー中だった53歳の女性が心肺停止状態で倒れましたが、後続でプレーしていた男性らにより助けられました。

倒れた女性のもとに駆け付けた男性とその場に居合わせたゴルフ場関係者が連携しながらAEDによる救命処置を行いました。男性もゴルフ場関係者も、過去にAEDの講習会を受けたことがあったため、スムーズに救命処置ができたといいます。

ゴルフは他のスポーツと比べて競技人口の年齢層が高く、40代以上のスポーツ中の突然死の代表的な要因となっています。また、ゴルフ場は敷地が広く郊外に立地していることが多いため、救急車の到着に時間を要するケースもありAEDの設置が特に求められる施設です。

スポーツ中の突然死を防ぐためには

スポーツ中の突然死を防ぐためには

スポーツ中の突然死を防ぐためには事前に対策を講じておくことが大切です。ここでは、突然の心停止から命を救うために効果的な対策について紹介します。

適正なAEDの設置

心停止は対応のスピードが生死を分けるといえます。心停止後何もしないと、1分経過するごとに助かる可能性は約10%ずつ低くなるため、救急車を呼ぶのは当然のこと、救急車が到着するまでの間も一次救命処置を行うことが重要です。

AEDは、心室細動の発生時に電気ショックを与えることで心室の収縮リズムを正常に戻し、血液を脳や全身に運ぶポンプ機能を取り戻すための医療機器です。日本心臓財団と日本循環器学会が推奨する「心停止から5分以内に電気ショックを与えること」や「300mごとにAEDを設置すること」などの指針に準拠した適正なAEDの使用と配置により、命を救える可能性が高くなります。これは、倒れている人がいる現場から片道1分以内にAEDを取りに行けることを指します。早足で1分以内に移動できる距離が150m、往復で2分以内となるため、一般市民が心停止を目撃してから、119 番通報とAEDの要請、AEDの運搬、AEDを装着する時間を確保できます。

参照:旭化成ゾールメディカル「AEDの適正配置をご存知ですか?」

マラソン大会などであれば、コース上一定の距離間でAEDを配置することが可能ですが、サッカースタジアムや野球場のような場所では配置に工夫が必要です。ベンチへの設置だけでは不十分なため、設置場所をほかにも設け、スタッフがAEDを携行し巡回するなどの対策も必要となります。

救命講習

参加者や関係者に大会前の救命講習への参加を促し、緊急時に救命処置ができる人を増やしておくことも心臓突然死を防ぐための対策です。どれほど多くのAEDが設置されていてもAEDの適正な使用や適切な救命処置をできる人がいなければ効果が発揮できません。

スポーツイベントやフィットネスジム、学校での運動中は周りに人がいることが多く、誰かが倒れても発見しやすい環境です。事前に講習を受け救命処置を実行できる人が目撃者の中にいれば、突然の心停止から命を救える可能性が高まります。

救命は一刻一秒を争います。救命処置を迅速に行うためには、講習で事前に一連の流れを理解しておくといざという時に落ち着いて対応することができます。また、マラソン大会などでは、「倒れている人を発見した際には、ビブスを着用した救護スタッフに知らせる」など具体的な対応の仕方を参加者に周知しておくことも重要です。さらに、AEDから「ショックは不要です」というメッセージが流れても、胸骨圧迫の継続が必要なことを関係者すべてが理解しておくことも大切です。

メディカルチェック

体に高い負荷を与える運動を長時間行う際には、あらかじめメディカルチェックを済ませておくことが大切です。持病がある人は、過去数週間に胸痛や息切れ、めまい、失神などが起きていないか確認し、事前に主治医の許可を受けておきましょう。また、当日も自分の体調を確認しておくようにします。

特に持病がない人も、自分の健康状態を過信せず、運動を始める前には万全の体調であるかをあらためて確認することが大事です。
問題がある場合は運動を見送らなければなりません。スポーツ中の突然死のリスクを回避するためには、楽しみにしていたイベントや大会でも参加を断念する決断も時には必要です。

スポーツ現場での救命手順

スポーツ現場での救命手順

スポーツ中に突然倒れるなど心停止の疑いが高い人を発見した場合には次の手順で救命処置を行いましょう。

① 周囲の確認

目の前で人が倒れた、倒れている人を目撃したときは、傷病者に近づく前に周囲の安全確認を行いましょう。競技が続行中の場合は、傷病者がいることを周囲に知らせて、傷病者と救助者の安全を確保します。

② 意識の確認

傷病者の肩をたたく、声を掛けるなどして反応を確認します。耳元で「大丈夫ですか」と3回ほど声をかけ、反応が無ければ救助をしましょう。

③ 119番通報とAEDの要請

呼びかけに反応しない場合、周囲の人へ助けを求めましょう。大きな声で119番への連絡とAEDを持ってきてもらえるよう要請してください。119番通報の際は、傷病者がいる場所を具体的に伝えてもらいます。

④ 呼吸の確認

正常な呼吸があるかどうかを目で見て確認します。胸と腹部が動いていない、普段どおりの呼吸をしていない、判断に迷う場合は呼吸が止まっていると判断します。呼吸の確認には10秒以上かけないようにしましょう。
正常な呼吸がある場合は、嘔吐や吐血による窒息などを防ぐため身体を横向きに寝かせ(回復体位)、救急隊が到着するのを待ちましょう。

⑤ 胸骨圧迫 (心臓マッサージ)

意識と呼吸がない場合は、ただちに胸骨圧迫(心臓マッサージ)を行います。胸の真ん中(胸骨の下半分)に手のひらの根元の部分を当て、両手を重ねて肘を伸ばし、真上から押し込むようにして、約5cmの深さ、1分間に100~120回のテンポで「強く」「速く」「絶え間なく」圧迫します。

⑥ AEDの使用

  • AEDの電源を入れる
    AEDが届いたらまず電源を入れます。AEDから音声ガイダンスが流れるので、その指示に従って操作してください。
  • パッドの装着と心電図解析
    傷病者の上半身の衣服をはだけて、AEDの指示に従って電極パッドを胸にしっかり貼り付けます。傷病者の肌が汗や水で濡れている場合は、タオルや衣服などで胸部の水分をしっかりふき取ってから電極パッドを貼り付けましょう。肌が濡れた状態だとパッドが肌に密着せず、AEDの効果が十分に発揮できなくなるため注意が必要です。

    パッドが胸に装着されると、AEDが自動で心電図を測定・解析します。『体に触れないでください。心電図を調べています』といった音声が流れるため、傷病者から離れて心電図の解析が終わるのを待ちます。
  • 電気ショック(必要な場合のみ)
    電気ショックが必要だとAEDが判断した場合は、『電気ショックが必要です。体に触れないでください。点滅しているショックボタンを押してください』といった音声が流れますので、AEDの指示に従いショックボタンを押して電気ショックを与えます。この際、周囲の人が傷病者の体に触れていないか安全確認をしてください。

⑦ 胸骨圧迫の継続

心電図解析後(または電気ショックを与えた後)は、ただちに胸骨圧迫を再開し救急車が到着するまで続けます。胸骨圧迫は適切な深さとテンポを意識しながら中断せずに行うことが重要です。周囲に手伝ってくれる人がいる場合は、1~2分程度を目安に交代しながら胸骨圧迫を続けてください。中断時間を作らないよう、交代は10秒以内で行います。

まとめ

スポーツ中の心臓突然死を防ぐためにはAEDの設置は有効な方法です。AEDが適正に設置されていなかったために尊い命が失われたケースは数多く存在します。今後、ひとりでも多くの命を守るためにも、スポーツが行われる場所にはAEDを適正に設置し、AEDを使用した一次救命処置を行える人を増やすことが大切です。

旭化成ゾールメディカルのAEDサイトでは、「AEDの使い方と心肺蘇生の流れ」が学べるコンテンツを多数ご用意しています。一次救命処置やAEDについての疑問にお答えしている「よくあるご質問」もぜひご活用ください。