2022年9月9日

突然目の前で人が倒れたら、あなたはどうするでしょうか?多くの人は、「AEDを使って救命処置をする」ことを知っています。その一方で、自分がそうした場面に遭遇したら、「AEDの使い方を知らない」ために使用することへの不安や、「電気ショックを与えることが怖い」と感じ、AEDの使用をためらってしまう人も多いのではないでしょうか?

AEDは誰でも簡単に使えるように設計されています。また、電気ショックが必要かどうかは救助者が判断するのではなく、AEDが判断し指示します。救助者はAEDの指示に従えばよいため、AEDを使ったことがなくても、安心して使用することができます。

ここでは、AEDの役割、AEDを使った一次救命処置の流れ、AEDの正しい使い方について説明します。

AED(自動体外式除細動器)の役割とは

 AED(自動体外式除細動器)の役割とは

AEDは、自動体外式除細動器(Automated External Defibrillator)の略称で、自動的に心電図の測定・解析を行ない、心臓がけいれんし血液を送り出すポンプ機能を失った心停止状態(心室細動)の傷病者に対して、電気ショックを与え(除細動)、心臓を正常なリズムに戻すための医療機器です。
AEDの基本情報については、AEDとはをご覧ください。

AEDの知識、間違っていませんか?

AEDについて間違ったイメージや誤った情報によって不安を抱えている人も少なくありません。ここでは誤解されやすいポイントを解説します。

AEDは止まった心臓を動かすものだと思っている人も多いのではないでしょうか。しかし、実際には、けいれんし血液を送り出すポンプ機能を失った心臓に電気ショックを与えることで、心臓に正常なリズムを取り戻すための医療機器です。

AEDの知識、間違っていませんか?

また、心停止状態であれば必ずAEDの電気ショックを行うというイメージを持っている人も少なくないでしょう。心停止は心室細動、心室頻拍、無脈性電気活動、心静止の4つの状態に分類され、AEDの電気ショックは、心室細動や心室頻拍という心臓がけいれんしている状態に適応となります。心停止であれば、必ず電気ショックを与えるわけではないことを理解しましょう。

しかし、たとえ医療従事者であっても、心停止の人がどの状態にあるかは一見しただけでは判断できません。 そのため、医学的知識がない一般市民が見分けることは当然困難といえるでしょう。AEDはどんな人でも救命処置ができるよう、倒れている人(傷病者)の心電図を測定・分析し、電気ショックが必要かどうかを判断し、救助者に指示を出します。もし、突然目の前で人が倒れて意識を失ってしまった場合には、AEDを使ってAEDの指示どおりに救命処置を行いましょう。

救命処置には、AEDの使用だけではなく胸骨圧迫(心臓マッサージ)を組み合わせることも必要不可欠です。先ほど述べたように、AEDの電気ショックは心臓の状態によって適応しない場合がありますが、胸骨圧迫はすべての心停止傷病者に必要です。そのため、AEDが到着するまで胸骨圧迫を行い、到着後にAEDの指示に従って救命処置を行いましょう。

自分の目の前で急に人が倒れてしまった場合、ひとりだけでなく複数人で協力することが大切です。胸骨圧迫をする人、救急車を呼ぶ人、AEDを持ってくる人、というように役割分担をして迅速に救命処置を進めましょう。

AEDが到着するまでの一次救命処置の流れ

AEDが到着するまでの一次救命処置の流れ

救命処置を行う際、AEDを使うべきか悩む人もいるかもしれません。「AED=電気ショック」というイメージが根強いために不安を覚える人も少なくないでしょう。

AEDは必要に応じて電気ショックを与える医療機器であり、「AEDの使用=電気ショックを与える」というものではありません。AEDによる電気ショックが必要かどうかは心電図をもとにしてAEDが判断するので、傷病者の状態を確認し、適切な処置を施すためにもAEDを使用しましょう。

以下にAEDが到着するまでの一次救命処置の流れを解説します。

① 周囲の確認

目の前で人が倒れた、倒れている人を目撃したときは、傷病者に近づく前に車の往来の有無など周囲の安全確認を行いましょう。傷病者が危険な場所にいる場合は、救助者自身の安全を確保したうえで、傷病者を安全な場所へ移動させます。

② 意識の確認

傷病者の肩をたたく、声を掛けるなどして反応を確認します。耳元で「大丈夫ですか」と3回ほど声をかけ、反応が無ければ救助をしましょう。

③ 119番通報とAEDの要請

呼びかけに反応しない場合、周囲の人へ助けを求めましょう。大きな声で119番への連絡とAEDを持ってきてもらえるよう伝えてください。

④ 呼吸の確認

正常な呼吸があるかどうかを目で見て確認します。胸と腹部が動いていない、普段どおりの呼吸をしていない、判断に迷う場合は呼吸が止まっていると判断します。呼吸の確認には10秒以上かけないようにしましょう。

正常な呼吸がある場合は、嘔吐や吐血による窒息などを防ぐため身体を横向きに寝かせ(回復体位)、救急隊が到着するのを待ちましょう。

⑤ 胸骨圧迫 (心臓マッサージ)

意識と呼吸がない場合は、ただちに胸骨圧迫(心臓マッサージ)を行います。胸の真ん中(胸骨の下半分)に手のひらの根元の部分を当て、両手を重ねて肘を伸ばし、真上から押し込むようにして、約5cmの深さ、1分間に100~120回のテンポで「強く」「速く」「絶え間なく」圧迫します。

骨折を恐れ、力を入れて押すことにためらいを感じる人もいますが、圧迫の力が弱すぎたりテンポが遅すぎたりすると、上手く全身に血液が送れません。そのため、胸骨圧迫は適切な深さとテンポを意識しながら中断せずに行うことが重要です。周囲に手伝ってくれる人がいる場合は、1~2分程度を目安に交代しながらAEDが到着するまで胸骨圧迫を続けてください。

AED到着後の一次救命処置の流れとAEDの使い方

AED到着後の一次救命処置の流れとAEDの使い方

ここでは、AEDが到着してからの一次救命処置の流れとAEDを使う上で知っておくと役に立つポイントを解説します。

① AEDの電源を入れる

AEDが到着したらまずAEDのふたを取り、電源ボタンを押して電源を入れます。メーカーや機種によって、電源ボタンを押すタイプとふたを開けると自動で電源が入るタイプがあります。電源を入れると音声ガイダンスが流れますので、その指示に従って操作してください。

② パッドの装着と心電図解析

傷病者の上半身の衣服をはだけて電極パッドを取り出し、AEDの音声指示に従って、電極パッドを胸に装着します。この時、電極パッドはしっかり皮膚に密着するように貼り付けましょう。

パッドが胸に装着されると、AEDが自動で心電図を測定・解析します。『体に触れないでください。心電図を調べています』といった音声が流れるため、傷病者から離れて心電図の解析が終わるのを待ちます。また、AEDによる心電図解析は2分ごとに行われます。

③ 電気ショック(必要な場合のみ)

心電図を解析した結果、電気ショックが必要だとAEDが判断した場合は、『電気ショックが必要です。体に触れないでください。点滅しているショックボタンを押してください』といった音声が流れますので、AEDの指示に従いショックボタンを押して電気ショックを与えます。この際、周囲の人が傷病者の体に触れていないか安全確認をしてください。

④ 胸骨圧迫

電気ショックを与えた後はただちに胸骨圧迫を再開しましょう。2分おきのサイクルで、①胸骨圧迫などの心肺蘇生、②AEDによる心電図解析、③電気ショック(適応の場合のみ)の手順を繰り返し、救急隊の到着を待ちます。

『電気ショックは不要です』の音声が流れたら

『電気ショックは不要です』という音声が流れた場合でも、救命処置の必要なしと判断されたわけではありません。「電気ショックが不要」=「心臓が正常な状態に回復した」わけではないからです。

AEDは心臓がけいれん状態に有効な医療機器のため、心臓の状態によってはAEDが適応しない場合があります。そのため『電気ショックは不要です』の音声が流れた場合でも、傷病者に反応がなければ胸骨圧迫が必要です。もし、処置中に手足が動く、意識が戻るなどの反応があれば電極パッドを貼り付けたまま体を横向きにして救急隊が到着するまで見守りましょう。

なお、AEDが電気ショック不要と判断した場合(非適応)に、誤ってショックボタンを押しても電気ショックは行われません。

特殊な状況下でのAEDの使用方法

傷病者の肌が濡れている場合には、タオルや衣服などで胸部の水分をしっかりふき取ってから電極パッドを貼り付けましょう。肌が濡れた状態だとパッドが肌に密着せず、AEDの効果が十分に発揮できなくなります。

貼り薬や湿布などが貼ってある場合には、それらを剥がして、肌に残った薬剤をふき取ってからパッドを貼り付けます。

胸毛が多いなど電極パッドの貼り付けを妨げるものがある場合には、AEDに付属されているカミソリで毛を剃って貼り付けます。カミソリが付属していない場合にはできるだけパッドを密着するようにします。密着しない状態だとAEDの効果が出にくくやけどの危険性もあるため注意しましょう。

ペースメーカーなどの医療器具が埋め込まれている場合は、胸にこぶのような硬いでっぱりがあります。その場合は必ず埋め込まれている部分を避けてパッドを貼り付けてください。

あなたの勇気とAEDで救える命があります

日本では、年間7万人以上の人が心臓突然死で亡くなっています。令和2年中に一般市民が目撃した心原性心肺機能停止傷病者数は25,790 人で、そのうち一般市民が心肺蘇生を実施した傷病者数は14,974 人でした。4割以上の傷病者は、一般市民による一次救命処置を受けることができなかったことになります。

一方で、一般市民が心肺蘇生を実施した傷病者数のうち、一般市民がAEDを使用し除細動(電気ショック)を実施した傷病者数は 1,092人で、そのうち1ヵ月後生存者数は 581 人と、半数以上の方が救命されています*

*参照:総務省消防庁「令和3年版 救急救助の現況

突然の心停止から大切な命を救うためには、迅速な一次救命処置が不可欠です。心室細動や心室頻拍の心停止は、心臓がけいれんして心臓から全身へ血液を送り出すことができない状態のため、何もしないでいると生存率が1分間経過するごとに約10%ずつ低下し、救急隊が到着する頃(通報から全国平均8.9分)には救命の可能性がほとんどなくなってしまいます。

つまり、傷病者のそばにいる一般市民(バイスタンダー)が、救急車が到着するまでの間に、一秒でも早くAEDを使用して救命処置を行うことが、大切な命を救う重要な鍵になるのです。

旭化成ゾールメディカルのAEDサイトでは、「AEDの使い方と心肺蘇生の流れ」が学べるコンテンツを多数ご用意しています。一次救命処置やAEDについての疑問にお答えしている「よくあるご質問」もぜひご活用ください。