2025年4月21日公開

AEDとは「自動体外式除細動器(Automated External Defibrillator)」の略称で、心停止状態に陥り、血液を送り出せなくなった心臓に電気ショックを与え、心臓のけいれんを取り除くための医療機器です。日本国内でAEDは広く普及していますが、2021年に日本でも製造販売が認可された「オートショックAED」をご存知でしょうか?一次救命処置の際に、オートショックAEDが運ばれてくる可能性もあります。そんな場合でも慌てずに使用できるよう、オートショックAEDについて学んでおきましょう。

オートショックAEDとは

オートショックAED

AEDは、日本では2001年頃から医師以外による使用が広がり、2004年7月から一般市民の使用も許可されました。一般的なAEDは、救助者がショックボタンを押すことで傷病者に電気ショックを与えます。

一方、オートショックAEDは救助者がショックボタンを押す必要がなく、電気ショックが必要とAEDが判断した場合に自動的に電気ショックを行います。心電図の解析結果をもとに電気ショックの要否を判断するのは、一般的なAEDと同じです。しかし、電気ショックが必要だと判断した時点で、ショックボタンを押さなくても自動的に電気ショックを実行するという点が異なります。

海外では2014年からオートショックAEDが導入され、日本でも2021年から製造販売が認可されました。それまで自動で電気ショックを行うタイプのAEDは「フルオート」「全自動」「フルオートマチック」など複数の呼称がありましたが、厚生労働省から認可を受けて日本市場で販売が開始されるタイミングで、国内では「オートショック」という表記に統一されています。

AEDの普及状況と課題

日本では、2020年までに約128万台のAEDが販売され、現在では約67万台のAEDが市中に設置されていると推計されています。一般市民によるAED使用の解禁から20年間の累計では、少なくとも8,000人もの尊い命が、その場に居合わせた市民によって救われました。その一方で、AEDの使用率の向上という課題も残されています。

2023年に一般市民が目撃した心肺機能停止状態の傷病者は28,354人で、うち16,927人(59.7%)が心肺蘇生を実施。しかし、その中で除細動が行われたのは763人。心肺蘇生が行われた死傷者にAEDが利用された割合は約4.5%に留まります

心停止に陥った場合、早期の除細動(電気ショック)と胸骨圧迫の有無が救命率に大きく影響します。電気ショックが1分遅れるごとに救命率は約10%ずつ低下しますが、救急車の到着は119番通報から平均10分といわれています。救急車が到着するまで何もしないと救命の可能性はほとんどなくなってしまいます。その場に居合わせた一般市民がAEDを使用した一次救命処置を行うことが、傷病者を突然の心停止から救うことにつながります。

電気ショックまでの時間と生存退院率

オートショックAEDの登場で、AEDの使用率や救命率の向上への貢献が期待されています。その背景と理由を後述していきます。

参照:令和2年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業) 『市民による AED 等の一次救命処置のさらなる普及と検証体制構築の促進および二次救命処置の適切な普及に向けた研究』 分担研究報告書 AED の販売台数と設置台数の全国調査
田邉晴山、横田裕行ら:全国のAEDの販売台数調査と正確なAED設置台数の把握を可能にする体制と手法の検討:AEDの販売台数と設置台数の全国調査 令和4年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)「市民によるAED等の一次救命処置のさらなる普及と検証体制構築の促進および二次救命処置の適切な普及に向けた研究」分担研究報告書
総務省消防庁「令和6年版 救急救助の現況」

オートショックAEDと一般的なAEDの違い

オートショックAEDは、一般的なAEDと以下の点が異なります。

  • 自動で電気ショックを行う
  • 見やすい箇所に「オートショック」共通ロゴマークがついている
一般的なAEDとオートショックAEDの大きな違いは、電気ショックの実施方法です。一般的なAEDは手動でボタンを押して電気ショックを行いますが、オートショックAEDは心電図解析後、ショックの必要があればアナウンスが流れ自動で電気ショックを行います。また、ケースや本体などわかりやすい箇所に共通のオートショックAEDのロゴマークがついているという特徴があります。オートショックAEDだとひと目でわかるデザインを採用しているのは、一般的なAEDと勝手が違うことに救助者が混乱し、AEDの使用が遅れたり救助者が感電したりする事故を防ぐためです。オートショックAEDの見分け方は後述するロゴマークを確認して判断しましょう。

オートショックAEDの特長

手動でショックボタンを押す一般的なAEDは、電気ショックのガイダンスが出てから救助者が実際に電気ショックを実施するまでにタイムラグが生じたり、電気ショックを行えなかったりすることがあります。AEDを使用する救助者の不安やパニックによるショックボタンの押し遅れや、適切にショックボタンを押すことができず電気ショックが行われなかったということが要因として挙げられます。
救命処置を行った救助者にストレス症状がみられたという報告もあるように、電気ショック実施に対する不安や強い責任を感じてしまうケースもあります。

電気ショックの自動化により、救助者の不安や操作ミスによって電気ショックが実施されないケースを減らせる可能性が示唆されています。具体的には「心理的負担の軽減」と「電気ショック遅れの防止」「電気ショック忘れの防止」の3つが挙げられます。

参照:総務省消防庁「令和6年版 救急救助の現況」
   旭化成ゾールメディカル「【2023年度版】一次救命処置およびAED使用に関する意識調査

心理的負担の軽減

AED講習を受けたことがあるという方でも、実際に目の前で人が倒れて心停止状態という状況になったとき、冷静に行動できるとは限りません。AED使用の重要性を頭では理解していても、「いざというときにショックボタンを押すのは怖い」という声もあります。
救命処置を経験した人のなかには「自分は正しく動けたのか」「もっとうまくやれたのではないか」といったことを考えてしまい、心身に不調が現れることがあります。
オートショックAEDが自動的に電気ショックを行うことによって、救助者がショックボタンを押すことによる心理的な負担の軽減に繋がります。

参照:日本臨床救急医学会、 蘇生ガイドライン2020検討委員会、バイスタンダーサポート検討小委員会「バイスタンダーとして活動した市民の 心的ストレス反応をサポートする体制構築 に係る提言(2020)」
   旭化成ゾールメディカル「【2023年度版】一次救命処置およびAED使用に関する意識調査
              「一次救命におけるバイスタンダーの重要性。救助者の心理的負担へのケアとサポート体制は?

電気ショック遅れの防止

⼀般的なAEDは、傷病者に誰も触れていないことを確認してからショックボタンを押し、電気ショックを実施します。適切な電気ショックは、傷病者の救命と早期の社会復帰の可能性を高める重要な要素です。しかし、「ショックボタンを押してください」とAEDから指示が出ても、焦ってしまったり、周囲が騒がしく音声ガイダンスを聞き逃したりなどの理由からすぐにショックボタンを押すことができないなどの人的なタイムラグが発生し、電気ショックの実施が遅れる場合があります。オートショックAEDは、AEDが自動で電気ショックを実施するため、こうしたショックの実施遅れが発生しません。

電気ショック忘れの防止

AEDを使用したものの、人的ミスによる電気ショックが行われなかった事例も報告されています。「胸骨圧迫に必死でショックボタンを押し忘れてしまった」「電気ショックボタンでなく、電源ボタンを押してしまった」「電気ショックが実行される前にAEDを取り外してしまった」といった例が挙げられます。

オートショックAEDは、こうした人的ミスを低減することが想定されています。自動的に電気ショックを行うため、救助者が混乱状態にある場合でも、電気ショックが必要な傷病者に対して確実に電気ショックを実施します。これにより、時機を逸することなく迅速な救命処置を行えるようになります。

オートショックAEDの見分け方

オートショックのロゴマーク

オートショックAEDであることがひと目でわかるように、オートショックのロゴマークがAEDのケースや本体のわかりやすい箇所に貼付されています。ロゴマークは、「電気ショックの必要性の判断」「充電」「電気ショックの実行」という一連の流れを自動で繰り返すオートショックAEDの機能を表しており、上部にJIS 規格のAEDマークと同じ電気ショックマークを採用し、わかりやすいデザインとなっています。

電気ショックを与える時点で救助者が傷病者に触れていると、感電する恐れがあります。一般的なAEDはショックボタンを手動で押すため、ボタンを押す前に周囲の状況を確認する時間を取れます。しかし、オートショックAEDはAEDが自動で電気ショックを実施するため、救助者が十分な距離を取れていないうちに電気ショックが実行される可能性があります。

このような事態を未然に防ぐため、使用者にAEDが自動で電気ショックを行うオートショックAEDであることを知らせる目的でロゴマークが貼られています。このロゴマークはメーカーを問わず共通です。

オートショックAEDの使い方

ここでは、オートショックAEDの使い方を紹介します。電源を入れて傷病者の胸部に電極パッドを貼る手順は一般的なAEDもオートショックAEDも同じです。心電図解析後、電気ショックが必要な場合、一般的なAEDは救助者が手動でショックボタンを押して電気ショックを実施しますが、オートショックAEDは自動で電気ショックを行います。そのため、使用する前に一般的なAEDかオートショックAEDかどうか、ロゴマークの有無をまず確認することが重要です。

AEDは電源を入れると種類に関わらず音声ガイダンスが流れますので、その指示に従ってAEDの操作と救命処置を行ってください。オートショックAEDの場合は、電気ショックが必要と判断するとガイダンス後に自動でショックが実施されます。周囲の人が感電しないように、傷病者から離れるよう速やかに注意喚起を行いましょう。

以下は、ZOLL AED 3オートショックZOLL AED 3(一般的なAED)の使用手順の違いです。 電気ショックが必要な場合、AED 3オートショックは「体に触れないでください。3秒後に自動で電気ショックします、3、2,1」と、注意喚起とカウントダウンの音声ガイダンスとディスプレイ表示がされます。 電気ショックが実施される前に、必ず傷病者から離れるようにしてください。それ以外の手順に違いはありません。

ZOLL AED 3オートショックとZOLL AED 3(一般的なAED)の使用手順の違い

まとめ

AEDが救命に必要不可欠な存在であることは広く認知されており、特に都市部においては普及が進んでいます。一方で、AEDを使うことに不安を感じる人も多く、実際の心停止事案における使用率の低さといった課題も残されているのが現状です。

オートショックAEDは除細動への心理的なハードルを下げるだけでなく、確実な電気ショックの実施を実現することで、救命率の向上が期待されています。AED設置管理者様にとっては、一般的なAEDに加え、オートショックAEDという新たな選択肢が増えたことになります。2021年7月に認可が下りてからまだ日が浅いですが、今後オートショックAEDの導入が進んでいくことが予想されるため、オートショックAEDについての知識を身に付けておくことも必要です。一般的なAEDとオートショックAEDの両方について理解を深めることが、いざという時にAEDを使用して傷病者の命を助ける一歩となります。

AEDの導入・設置に関するご相談は、お問い合わせフォーム、またはAEDコールセンター(0800-222-0889)へお気軽にお問い合わせください。
旭化成ゾールメディカルのAEDサイトでは、「AEDについての基礎知識」や「AEDの使い方と心肺蘇生の流れ」が学べるコンテンツを多数ご用意しています。一次救命処置やAEDについての知識が得られる「AEDコラム」や、よくある疑問にお答えしている「よくあるご質問」もぜひご活用ください。