2023年6月12日
AEDとは、心臓がけいれんし血液を送り出すポンプ機能を失った心停止状態(心室細動)の傷病者に対して、電気ショックを与え(除細動)、心臓を正常なリズムに戻すための医療機器です。こうした事態に備えてAEDは市中のさまざまな場所に設置されており、救急救命のために医療従事者以外の一般市民も使用することができます。
AEDは、電極パッドを正しい位置に肌に密着させて貼ることで電気をうまく伝え、その効果を発揮します。いつ使うかわからないAEDだからこそ、パッドを貼る位置や貼る際の注意点を普段から確認しておくと安心です。ここでは、AEDのパッドの貼り方と注意点について詳しく解説します。AEDの仕組みや使い方もあわせて説明しますので、役立ててください。
AEDとは?
AEDとは、心停止状態になった人の心臓に電気ショックを与え、正常な心臓の動きを取り戻すための医療機器です。AEDの正式名称は「Automated External Defibrillator」で、日本語では「自動体外式除細動器」と呼ばれています。
心停止とは、心臓の機能が停止してしまった状態のことをいいます。なかでも、心臓がけいれんを起こしている心室細動の原因は、心臓に送られる電気信号の乱れと考えられています。そこでAEDによって電気ショックを与え、電気信号を整えることで、心臓の動きを正常に戻すことを目指します。
AEDには、電気ショックを与えるだけでなく、さまざまな機能が備わっています。AEDの仕組みは、電源を入れパッドを傷病者へ装着するとまず心電図を測定・解析し、電気ショックが必要な状態かどうかを自動で判断するようになっています。解析の結果、電気ショックが必要と判断された場合にのみ通電するため、救急隊員や医師などの医療従事者でなくても、誰でも安全にAEDを使用できるように設計されています。
参考:旭化成ゾールメディカル「AED(自動体外式除細動器)とは?基礎知識について解説」
パッドの正しい貼り方は?AEDの使用手順を解説
AEDに入っている重要な付属品が、電極パッドです。ここではAEDの使い方とあわせて、パッドの正しい貼り方と注意点を解説します。
AEDを使用する
AEDを使うときは、まず本体を傷病者の頭の近くに置き電源を入れます。どのAEDも音声メッセージやディスプレイ表示など、使い方を案内する機能が備わっているため、ガイダンスに従って操作してください。パッドの袋を開封し、傷病者の胸をはだけパッドを貼り付ける準備をします。
なお、AEDの手配・使用と同時に、救急隊の要請(119番通報)を忘れずに行いましょう。救急隊からAEDの使用を指示されることもあります。
電極パッドの貼り方と正しい位置
AEDの電極パッドの貼り方は、一度覚えてしまえば難しくありません。パッドの箱や袋、パッドの表面にイラストで貼る位置が示されています。いくつかの注意点を覚えておくと、いざというときに落ち着いて対応できるでしょう。貼り方や注意点は以下のとおりです。
上衣を脱がし胸をはだけ、パッドを保護シートから剥がして、素肌に密着させるようにしっかりと貼り付けます。パッドと肌の間に空気が入っていると電気がうまく伝わらないため注意しましょう。
ブラジャーなど下着の上にパッドを貼ってはいけません。女性の胸を露出させることは躊躇しがちですが、救命のためパッドを適切な位置にしっかりと貼り付けることを最優先します。その際、できるだけ人目に触れないような配慮*ができるとよいでしょう。
AEDのパッドは2枚組が一般的ですが、パッドが一体型になっているタイプのAED**もあります。
パッドを貼る正しい位置は、傷病者の右前胸部(右鎖骨の下で胸骨の右)と、左側胸部(脇の5~8cm下、乳頭の斜め下)の2カ所です。救助者から見ると、左上の鎖骨の下と、右下の脇腹に1枚ずつパッドを貼る形となります。
*参考:旭化成ゾールメディカル「女性に対するAEDの使用について知っておきたいこと」
**参考:旭化成ゾールメディカル「AED Plus一体型の小学生~大人用パッドの装着方法」
未就学児(小学校入学前の子ども)にAEDを使う場合は、未就学児用パッドを使用しますが、未就学児用パッドがない場合は小学生~大人用パッドも使用可能です。未就学児へのパッドの貼り方は、1枚を胸の真ん中、もう1枚は心臓を挟むように背中側に貼ってください。
ケース別の貼り方と注意点
その他、パッドを貼る際のポイントや注意点をケース別に解説します。
- 胸が濡れている場合
胸部が濡れている場合、パッドが肌にしっかり貼り付かないだけでなく、電気が逃げてしまいAEDの効果が十分に発揮されません。タオルなどで水分をふき取ってからパッドを貼ってください。このとき、パッドが水に濡れないよう注意しましょう。背中、周囲の床などが濡れていても問題はありません。 - 胸に貼り薬やアクセサリーがある場合
貼り薬やアクセサリーの上に、AEDの電極パッドを貼ることはできません。貼り薬がある場合は剥がし肌に残った薬剤を拭き取ってからパッドを貼ってください。ネックレスなども外します。外したものは到着した救急隊へ忘れずに渡しましょう。
AEDは電気を流すため、金属のアクセサリーがあると電気ショック効果の低下につながる恐れや、火傷の原因になる可能性があります。うまくアクセサリーが外せない場合は、電極パッドに触れないようなるべく遠ざけてAEDを使用してください。 - 胸の体毛が濃い場合
パッドが肌に密着していないと電気がうまく流れないため、胸の体毛が濃い位置にパッドを貼ることは避けてください。胸部でも体毛の薄い位置に貼るか、体毛の処理が必要です。
AEDに救急セットが付属されていれば、剃刀や清拭布などが含まれている場合があります。剃刀がある場合は、体毛が濃い部分を剃ってパッドを貼ってください。ただし、それによる電気ショックの遅れは最小にすべきです。 - 妊婦である場合
傷病者が妊婦だった場合でも、AEDを使用できます。妊婦の心臓が正常に動いていないと胎児の命も危なくなるため、AEDが必要な状態であれば、AEDを使うことこそが妊婦のみならず胎児の命も救うことにつながります。 - ペースメーカー、除細動器が埋め込まれている場合
ペースメーカーや除細動器が埋め込まれている人にもAEDを使うことができます。この場合、胸の機器が埋め込まれている位置に出っ張りがあることを確認できるため、出っ張っている位置を避けてAEDのパッドを貼り付けてください。
心電図を解析する
AEDのパッドを装着した後、心電図の解析が行われるため、AED本体の音声メッセージやテキスト表示などのガイダンスに従ってください。パッドが体に貼り付けられるとAEDがそれを感知し、自動的に解析を開始します。このとき傷病者から離れるようアナウンスがあるため、胸骨圧迫を中断し、周囲の人も含めて全員が傷病者から離れてください。体に触れている人がいると、正確な心電図の解析ができなくなるため注意が必要です。
電気ショックを与える
電気ショックが必要な場合、傷病者に電気ショックを与えてください。ただし電気ショックを与えるのはAEDが電気ショックを必要であると判断した場合に限られます。
「ショックが必要です」など、AEDから電気ショックを必要とする音声やテキストによる指示が出た場合、感電を防止するため傷病者から離れ、周囲の人にも離れてもらうよう伝えます。ガイダンスに従ってショックボタンを押し、電気ショックを与えてください。
「ショックは不要です」とメッセージが流れた場合は、ただちに胸骨圧迫を再開してください。AEDが電気ショックは不要と判断した場合は、ショックボタンを押しても通電せず電気は流れません。
心肺蘇生法(胸骨圧迫・人工呼吸)を行う
電気ショックが終了すると、AEDから胸骨圧迫をするように促されます。心肺蘇生法の基本は、胸骨圧迫30回、人工呼吸2回の組み合わせですが、人工呼吸は訓練をした人で、かつ意思のある場合のみ行えば良いとされています。また、新型コロナウイルス感染症流行下では、成人に対しては人工呼吸を行わないよう厚生労働省からの指針が示されています。胸骨圧迫は、次のAEDのメッセージか救急隊の到着まで続けてください。
胸骨圧迫は、1分間に100~120回のテンポ、約5cmの深さで、「強く、速く、絶え間なく」行うことがガイドライン*で推奨されています。小学生から大人の場合、胸骨圧迫を行う場所は胸の真ん中(乳頭と乳頭の中心)で、両手を使い5cm沈むよう力を入れて圧迫します。未就学児(小学校入学前の子ども)と乳児の場合は、胸の厚み1/3程度を押すように圧迫しましょう。
適切な胸骨圧迫によって救命率の向上**が期待できます。周囲に複数の人がいれば交代しながら、途切れないよう行ってください。
*参照:JRC日本蘇生協議会「JRC蘇生ガイドライン2020」
**参考:旭化成ゾールメディカル「AED(自動体外式除細動器)とは?基礎知識について解説」
AEDと心肺蘇生法を繰り返す
心肺蘇生法を2分行うとAEDが自動的に心電図の解析を開始します。音声メッセージに従って傷病者から離れてください。
電気ショックが再び必要な状態であればAEDから音声メッセージがあるため、ガイダンスに従って電気ショックを与えます。このようにして心電図の解析→電気ショック→心肺蘇生法のサイクルを繰り返しながら、救急隊の到着を待ってください。
まとめ
AEDのパッドの貼り方は、位置がわかれば決して難しいものではありません。パッドの位置2カ所を確認し、肌にしっかりと密着するように貼れば、AEDが自動的に心電図を測定・解析し、電気ショックを行うべきかどうか判断してくれます。
AEDはとっさのときに人の命を救うことのできる医療機器です。一般市民による心肺蘇生が行われた傷病者の1か月後の生存率は14.1%ですが、そのうち心肺蘇生法に加え、AEDによる除細動が行われた傷病者の1か月後の生存率は49.3%と飛躍的に向上しています*。
*参照:総務省消防庁「令和4年版 救急救助の現況」
「自分にも使えるだろうか?」と不安を感じるかもしれません。しかしAEDは使い方や救命処置の手順をガイダンスし、電気ショックをするかどうかを自動で判断して指示を出す機能がついているため、知識や経験のない人でも使えるようになっています。目の前で人が心停止を起こしたら、命を救うために迷わずAEDを使用してください。
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