2026年1月23日公開
AED使用時におけるプライバシー保護は、単なるマナーの問題ではなく、救命の現場でAEDが適切に使用されるために重要です。傷病者はもちろん、救命活動に関わる全ての人に対する配慮が欠かせません。
本記事では、AED使用とプライバシー保護の現状や、傷病者・救護者のプライバシーを保護する具体策、女性へのAED使用に関するよくある誤解など、AEDを使用する人や設置管理者が知っておくべき情報を解説します。

女性へのAED使用率は低い
一般的に、女性は男性よりもAEDを使われにくい傾向にあります。これは、救助者が「服を脱がせることへの抵抗」や「AED使用後に訴えられる不安」を抱くことが主な理由です。しかし、突然の心停止から命を救うためには、性別にかかわらず迅速にAEDを使用することが不可欠です。
心肺停止状態の傷病者は、1分経過するごとに7〜10%ずつ救命率が低下していきます。また、119番に通報してから救急隊が到着するための時間は全国平均で約10分です。そのため、傷病者が女性だからという理由でAEDの使用をためらっているうちに、救命できる確率が低下してしまう恐れがあります。
※出典:総務省消防庁令和6年度版 救急救助の現況|救急救助の現況
京都大学が全国の学校で行った調査によると、校内で心停止になった小学生・中学生の生徒に対し、救急隊が到着する前にAEDの電極パットが使用されたかについて、男女で大きな差はありませんでした。しかし、高校生になると、男子生徒83.2%に対して、女子生徒への使用は55.6%にとどまり、30%近くの差が生まれてしまっています。
年齢が上がるにつれて、女性へのAEDの使用に抵抗感が生まれていることが分かります。このAED使用時の男女差は、AEDの使用率アップに向けた課題といえるでしょう。
AED使用者・設置管理者ができるプライバシー保護の具体策
救助者が傷病者や自身のプライバシーを気にして、AEDの使用を躊躇する人もいるかもしれません。しかし、AEDを使用しての救命活動は、救命活動に関係する人のプライバシーを守りながら使用することが可能です。
プライバシーを守りつつ、適切に救助するためにAED使用者や設置管理者は何ができるのでしょうか。ここでは、自治体のWebサイトで紹介されている内容を中心に解説します。

救命テントを利用する
AEDを使用する際、もし、すぐに設営ができる救命テントがあれば、傷病者と救助者のプライバシーを守るために利用できます。心理的な不安はAEDの使用を躊躇させる要因になるため、周囲の目を気にせず救命活動にあたれば、落ち着いて救命処置を行うことができるでしょう。
救命テントは、メーカーから専用の製品が販売中です。例えば、旭化成ゾールメディカルは、2022年にオリジナルの救命テントを発売しました。軽量で折りたたみが可能なためかさばらず、持ち運びにも便利です。設営も簡単で、1秒を争う救命時でもスムーズに使用できます。テント内は傷病者を収容するのに十分なスペースがあり、光遮断加工により透ける心配もなく、プライバシーを保護しながら救命処置ができる製品です。
参照:旭化成ゾールメディカル株式会社「旭化成ゾールメディカルオリジナル「救命テント」を新発売しました」
衣類などで被覆する
救命テントがない・すぐに設置できない場合は、衣類やタオルを利用して傷病者を被覆するのも有効な代替案です。身近にある三角巾やタオルなどを使用して傷病者の胸部を覆えば、プライバシーを守りながら救命活動ができます。透けそうな場合は、複数枚重ねましょう。
AEDによっては、プライバシー保護用の三角巾などが付属している場合もあります。付属していない場合は、AED設置者が別途用意してAED収納ボックスに同梱しておくなどの対策が望ましいでしょう。
傍観者の視線を遮るように呼びかけなど配慮する
テントや三角巾など、傷病者の体を保護する備品がない場合でも、その場にいる人々の協力があれば、プライバシーの保護は可能です。AEDの設置管理者は、できる限り人目を避けて救命活動が行えるよう、周りの人たちに協力してもらいましょう。
タオルやマフラーなどがあれば、カーテンのように人目を隠すのに利用できる他、人垣によって視線を遮る方法もあります。「周りの人は協力して人垣を作り、傷病者が見えないようにしてください」のように具体的な呼びかけをしてください。
また救護活動に関わらないのに好奇心などで近付いてくる人には、離れてもらうのも大切です。AEDに関する普段からの啓発が、万が一の際、スムーズな連携につながるでしょう。
プライバシー保護に配慮していることを示す
建物などにAEDを設置する場合、各自治体からプライバシー保護に配慮した施設の表示も推奨されています。体を隠せる備品をAEDに同梱したり、プライバシーに配慮したAEDの使い方に関する資料を配備したりするなどの対策を実施するとともに、一般の人にも分かるよう掲示を行ってください。
プライバシー保護に配慮したAEDが設置されていると分かれば、救助者もためらわずに行動しやすくなります。
女性へのAED使用でよくある誤解
女性へのAED使用が躊躇される背景には、さまざまな原因が存在しますが、いずれも誤解です。突然の心停止では一刻を争います。救助者となった場合は、ためらわずにAEDを使用することが何より重要です。
中でも、セクハラ問題や妊娠中の女性への使用は、救助者が特に誤解しやすい点です。以下で、それぞれについて詳しく解説します。
女性へのAED使用によって訴えられた事例はない
「女性にAEDを使用した場合、後からセクハラや痴漢行為で訴えられるリスクがあるため使わない方が良い」といった誤解は根強く、ネット上では間違った認識が拡散されるケースもあります。SNSや一部のメディアでは「AEDを用いて救命処置を行った一般市民が傷病者やその家族に訴えられた」といううわさが流布されているのを目にすることもありますが、こうした情報の出所や真偽は明らかではありません。
厚生労働省は、「非医療従事者によるAEDの使用のあり方に関する報告書」において、救命行為全般に関する一般的な法解釈の方向性として、人命救助の観点からやむを得ず行ったAED使用については、刑事・民事いずれの責任も問われるべきではないとの方針を示しています(※)。根拠不明の情報に惑わされず、ためらわずAEDを使用することが大切です。
※参考:厚生労働省「非医療従事者による自動体外式除細動器(AED)の使用のあり方検討会報告書」
妊娠中の女性にもAEDは使用できる
AEDは人体に電気ショックを与えるため「胎児に悪影響を与えるのではないか?」と使用を躊躇するケースもあるようですが、AEDは妊娠中の女性にも使用可能です。
妊娠中の使用は母子に絶対に影響が出ないとは言い切れないものの、電極パッドを装着する胸部と腹部の羊水の中にいる胎児の距離は離れているため、AEDのショックエネルギーが到達する可能性は低いと考えられます。現在のところ、AEDが胎児への悪影響を及ぼしたという報告はありません。
また母親の心臓が止まれば、胎児への酸素供給も滞り、赤ちゃんの命も助からなくなってしまいます。胎児の命を救うためにも、母親への救命処置が優先といえるでしょう。
まとめ
AEDを使用する際、傷病者や救助に関係する人々のプライバシーへの保護は大切ではあるものの、救助をためらう要因になってしまうのは問題です。救命テントの利用や衣服での被服、周囲の協力などがあれば、プライバシーを保護しながら適切にAEDを使用することは可能です。
女性へのAED使用に関しても、訴訟のリスクや妊婦への使用リスクなどのうわさの多くは誤解であり、過剰に心配する必要はありません。突然の心停止など傷病者に居合わせた際は、ためらわずにAEDを使用してください。AEDの設置管理者も、万が一の際に、現場に居合わせた人が不安なくAEDを使用できるよう、プライバシーを保護する備品の設置や啓発活動などを積極的に行いましょう。


