2022年7月26日公開 | 2024年5月17日更新

みなさんが日々過ごされるオフィスや学校、よく訪れる施設などでは、突然の心停止から命を守る備えが十分されているでしょうか?日本国内では2004年7月に一般市民によるAEDの使用が解禁されて以来、この20年間でAEDの普及が進みつつありますが、身近でAEDがすぐに使える場所に設置されているかどうか、知らない方も多いのではないでしょうか?

ロビーや入口にAEDがあったとしても、他のフロアや 離れた場所、工場などの広い場所で傷病者が出た場合、 AEDを届けるための移動に時間がかかります。
AEDの配置が効果的かつ効率的でなければ、いざというときに突然の心停止から大切な命を救うことができなくなってしまいます。

ここでは、AEDの導入を検討している、または既に設置済みの事業者や施設管理者が知っておくべきAEDの効果的・効率的な設置場所や適正配置に関する基準について、厚生労働省が公開している設置基準をもとに解説します。

AEDの設置基準が設けられた背景

AEDの設置基準が設けられた背景

AEDとは「自動体外式除細動器」のことで、突然の心停止を起こした傷病者に対して、一般市民が除細動を行うことのできる医療機器です。

2024年5月現在、企業や施設への法的なAEDの設置義務はないものの、2004年7月の非医療従事者によるAED使用が認可されて以来、AEDの積極的な設置が推進されています。

心停止時の救命率(生存率)は、電気ショックが1分遅れるごとに約10%ずつ低下するといわれています。一方で、総務省消防庁「令和5年版 救急救助の現況」によると、119番通報から救急車が現場に到着するまでの所要時間の全国平均は約10.3分でした。つまり、心停止から救急車の到着まで何もしないでいると、救命の可能性はほとんどなくなってしまうのです。

同調査では、救命処置にAEDを使用した方が1カ月後の生存率・社会復帰者率が高いことも報告されており、救命にはAEDが欠かせないことが分かります。
にもかかわらず、一般市民に目撃された心原性心肺機能停止傷病者(突然の心停止)28,834人のうち、AEDが使用されたのは1,229人と、わずか4.2%に過ぎませんでした。

そのため、厚生労働省は、AEDの設置および配置について具体的な目安を示すことにより、効果的かつ効率的なAEDの設置を促し心臓突然死の減少につなげるため、「AED の適正配置に関するガイドライン」を公開しています。

AEDが使用されていない多くのケースにおいて、以下のような背景があるとみられています。

  • AEDの絶対数不足
  • 心停止の発生場所と設置場所のミスマッチ
  • 地域におけるAED配置基準に一貫性がない
  • 設置場所が市民に周知されていない
  • 設置に関する政策の関与や計画的な配置がなされていない

一般市民によるAEDの使用率が低いのは、AEDの設置数が少ないことに加え、AEDが計画的・効果的に設置・配置されていない、AEDの設置に関する情報提供が十分でないことが大きな理由だといえるでしょう。

参照:厚生労働省「AEDの適正配置に関するガイドライン」
   総務省消防庁「令和5年版 救急救助の現況 | 救急救助の現況」

「AEDの適正配置に関するガイドライン」とは

AEDの適正配置に関するガイドライン」とは

「AEDの適正配置に関するガイドライン」は、AEDの設置・配置場所に関して、具体的かつ根拠のある指標を示すために作成され、2013年に一般財団法人日本救急医療財団から公表されました。2018年には、AEDを取り巻く環境や指標の背景にある根拠の変化に対応するため、またAEDの機能向上を受けて、より効果的かつ戦略的なAED配備・管理を目指した内容に補正されました。

同ガイドラインでは、AEDの「設置」と「配置」という2つの言葉を使い分けています。

設置:ビルや施設など、特定の場所にAEDを置くこと
配置:心停止傷病者が発生した場合に、迅速かつ適切な救命処置が行えるよう配慮した場所にAEDを置くこと

ここからは、「AEDの適正配置に関するガイドライン」をもとに、AEDの設置場所および配置場所に関して考慮すべき点を確認していきましょう。



AEDの"設置場所"で考慮すべきこと

AEDの効果的・効率的な"設置場所"について、考慮すべき点は以下のとおりです。

  • 心停止(なかでも電気ショックの適応である心室細動)の発生頻度が高い(人が多い、ハイリスクな人が多い)
  • 心停止のリスクがあるイベントが行われる(心臓震盪のリスクがある球場、マラソンなどリスクの高いスポーツが行われる競技場など)
  • 救助の手がある / 心停止を目撃される可能性が高い(人が多い、視界がよい)
  • 救急隊到着までに時間を要する(旅客機、遠隔地、島しょ部、山間部等)

心停止が目撃される割合、電気ショックの適応割合は公共場所のほうが高く、救命される可能性も高いため、公共場所を中心としたAED設置が推奨されてきました。
AED を効果的・効率的に活用するためには、人口密度が高い、高齢者が多い、運動やストレスなどに伴い一時的に心臓発作のリスクが高いなどの心停止発生頻度だけでなく、目撃されやすいこと、救助を得られやすい環境であることも考慮する必要があります。

また、旅客機や離島など、救急車の到着に時間がかかるアクセスの悪い場所や、医療過疎地域等で迅速な救命処置を得にくい状況においても、利用者や住民へ提供される医療サービスに不公平が生じないようAED 設置に配慮が求められます。

北米で実施された大規模な地域介入試験の結果から、アメリカやヨーロッパでは、5年に1件以上の心停止傷病者が発生する場所への設置が推奨されており、このような AED の設置によって公共の場で発生する約 2/3 の心停止をカバーできるとされています。日本国内においても、施設内にAEDを設置すべきかどうかを検討する際の具体的な目安のひとつになるでしょう。



AEDの"配置場所"で考慮すべきこと

AEDは単に設置するだけでなく、心停止が起きた場合にすぐ救命処置を行えるよう、適切な場所に配置することが大切です。すでにAEDを設置されている場合は、以下が十分に考慮されているか確認し、必要に応じて配置を見直しすることをおすすめします。また、これから設置を検討される場合は、以下の条件を満たせるように設置・配置計画を進めてください。

  • 心停止発生のリスクが高い場所
    不特定多数の人が利用する場所や、心停止リスクの高い人が利用する場所
  • 心停止者が出た場合、5分以内にAEDの装着ができる場所
    傷病者発見から、5分以内にAEDによる除細動(電気ショック)が可能な場所
  • 誰でもがアクセスできる場所
    カギがかかっていない場所や、警備員・通行人など常に使用できる人が近くにいる場所
  • 誰でも見つけやすい場所
    入口付近や多くの人が通る場所、分かりやすいAED設置の表示
  • 誰もが24時間使用できる場所
    時間帯によって施錠したりしない
  • 日常点検がしやすく、壊れにくい場所
    AED機器が取り出しやすい場所や、温度・湿度・風雨などに影響を受けにくい場所

また、AEDは設置するだけでなく、緊急時にも迅速に適切に使用できるよう、施設職員や管理者が普段から設置場所を把握しておく必要があります。
ここでは、「心停止から 5 分以内に電気ショックが可能な配置」について、詳しく解説していきます。



心停止から 5 分以内に電気ショックが可能な配置とは

日本心臓財団・日本循環器学会では、心停止から5分以内の除細動(電気ショック)と、300mごと(早足で1分以内)のAED設置を推奨しています*

参照*公益財団法人日本心臓財団「AEDの設置基準の条件」



心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割を果たしているため、 心臓が止まると血液が送り出されなくなります。 心停止から1分間処置が遅れるごとに約10%ずつ救命率が 低下し、何もしないで3分間経過すると脳機能に障害が起こり始めるといわれています。そのため、命を救うには迅速な救命処置が必要となります。

心停止から電気ショックまでの時間

一方で、一般市民が心停止を目撃してから、119 番通報(心停止を 認識し行動する)までに 2~3 分を要します。救命には、心停止発生から長くても 5 分以内に AED を使用できる体制 が必要なため、現場から早足で片道 1 分以内の密度、すなわち300m間隔でAEDを配置することが望まれます。

実際に、愛知万博では100 台の AED が300mごとに設置され、会場内で発生した心停止 5 例中 4 例が救命に成功しました。羽田空港 では、3分以内にAEDを届けられる 場所にAEDが設置されています。

AEDの適正配置

また、施設内の AED はアクセスしやすい場所に配置されていなければなりません。例えば、オフィスビルやマンションなどではエレベーターや階段等の近くへの配置が望ましいでしょう。工場などの広い施設では、通報から、AED 管理者が現場に直行する体制を整える必要があります。敷地の広さに応じて、自転車やバイク等の移動手段を活用した時間短縮も考慮しましょう。

特に規模の大きい施設は、場所を考慮せずに設置するといざ使用するときにAEDの到着まで時間がかかってしまう可能性があるので注意が必要です。
高層ビルの1階受付や、広い敷地内の管理室にのみAEDが設置されている場合、離れたフロアや棟から取りに行くことを想定すると、適切な配置がされているとは言えません。すでにAEDを設置されている場合でも、大切な命を守るための適正配置を考慮したAED設置場所の見直しやAEDの増設を検討しましょう。

参照:旭化成ゾールメディカル「AEDの適正配置をご存知ですか?

AEDの設置が推奨・考慮される施設について

「AED の適正配置に関するガイドライン」には、AED設置の考慮が推奨される具体的な施設や状況についても提示されています。管理している施設が設置を推奨または考慮すべき施設に該当しているかどうかをチェックしておきましょう。該当している施設で未設置の場合は、AED設置の検討をおすすめいたします。

弊社AEDコラム「AEDはどこにある?知っておきたい設置場所や設置基準のポイント」でも、AED設置が推奨または考慮される施設について解説していますので、ぜひご参考ください。



AED設置が推奨される施設例

ガイドラインに示されている、AED設置が推奨される施設は以下のとおりです。

  • 駅・空港・長距離バスのターミナル
  • 高速道路のサービスエリア・道の駅
  • 旅客機・長距離列車・旅客船などの長距離輸送機関
  • スポーツジムなどのスポーツ関連施設
  • デパート・スーパーマーケット・飲食店などの大型商業施設
  • アミューズメントパーク、海水浴場、スキー場などの多数集客施設
  • 市役所・公民館などの大きな公共施設
  • 交番・消防署などの人口密集地域にある公共施設
  • 50人以上が入所する介護・福祉施設など大型の高齢者施設
  • 小学校・幼稚園・中学校・高校・大学・専門学校などの学校
  • 多くの社員を抱える会社・工場・作業場
  • 競馬場・競艇場・パチンコ店などの遊興施設
  • 大型のホテル・コンベンションセンター
  • その他
    • ≫一次救命処置の効果的実施が求められるサービス(民間救急車など)
    • ≫島しょ部および山間部などの遠隔地・過疎地、山岳地域など

上記の施設でAEDが未設置の場合は、設置を検討すべきといえるでしょう。



AED設置が望ましいとされる施設例

ガイドラインで推奨とまではなっていないものの、設置が望まれる(考慮される)施設の例は以下のとおりです。

  • 地域のランドマークとなる施設
    (郵便局・銀行のように利用者の目印になる施設、24時間営業のコンビニエンスストア・ガソリンスタンド・ドラッグストアなど利用しやすい施設)
  • 保育所・認定こども園
  • 集合住宅

設置が推奨される施設以外でも、多くの人が日常的に利用する施設や子どものいる施設ではAEDの設置を考慮するのが望ましいです。また、心停止の約70%が自宅・住居で起こっていることから、人口が密集する集合住宅への設置も求められます。

AEDを適切に設置・運用するための注意点

AEDを適切に設置・運用するための注意点

AEDを適切に設置して運用するためには、配置場所はもちろん、適切な使用が行える環境作りも重要です。AEDを設置・運用する際は、以下の注意点についても考慮してください。



AEDマップへの設置登録を行う

AEDを設置した後は、一般財団法人日本救急医療財団の「AEDマップ」への設置登録を行いましょう。「AEDマップ」は、厚生労働省の指示に基づいた、日本唯一となる全国版の登録型AEDマップで、突発的な心停止者に遭遇した際、付近にあるAEDの場所を探せるWebサイトです。

AEDマップは任意登録制となっているため、登録が行われていなければAEDの存在が十分に認知されず、AEDが適切に使用されない可能性があります。AEDの新規設置や更新・廃棄の際は、AEDメーカーや販売会社への連絡とAEDマップへの登録を必ず行ってください。

参照:一般財団法人日本救急医療財団「財団全国AEDマップ」



AED設置施設の関係者への研修・訓練を実施する

AEDの設置施設では、職員や利用者、近隣住民などに対して研修・訓練を行い、適切な使用方法を含めた心肺蘇生法を理解して実施できる状態にしておきましょう。AEDの使用法を含めた救命講習は、消防署、自治体、日本AED財団、日本赤十字社、NPO法人AED普及委員会など各所で開催されています。

近年では、現地講習だけでなくオンライン講習や動画教材も豊富に提供されているため、関係者全員が参加しやすい講習方法で実施しましょう。

参照:旭化成ゾールメディカル「AEDの講習会とは?一次救命を学ぶには?



常日頃から点検・メンテナンスを行う

AEDは設置と合わせて、日常的な点検とメンテナンスが欠かせません。AED本体のインジケーター(AEDが使用できる状態かを知らせるランプや画面)の確認や、パッドやバッテリーなど消耗品の期限確認と必要に応じた交換、定期的な管理を行うために、AEDを設置したらただちに管理担当者を任命しましょう。

参考:厚生労働省「AEDを点検しましょう!」

まとめ

心停止が起こった場合、そばにAEDがあれば命を救える可能性が高まります。法律で義務化はされていないものの、多くの人が利用したり、リスクの高い人が利用したりする施設では、AEDを設置しておくのが望ましいといえるでしょう。

また、AEDを設置する際は、効果的・効率的な場所への配置を考慮することでAEDの利用率が高まり、より多くの命を救うことに寄与できるでしょう。
さらに、管理者による定期的な点検・管理、AEDマップへの登録による設置場所の周知、職員や利用者に対する研修・講習により、いつでもAEDを適切に使用できるよう環境整備を心がけてください。

旭化成ゾールメディカルのAEDサイトでは、「AEDの使い方と心肺蘇生の流れ」が学べるコンテンツを多数ご用意しています。一次救命処置やAEDについての疑問にお答えしている「よくあるご質問」もぜひご活用ください。